大橋会館新聞

2023.07.15

気取らない街の余白、
曖昧に引かれた境界線

Edit: Kohei Okura | Interview & text: Jun Kuramoto | Photo: Tatsuki Nakata

ローカルに根ざした街、池尻大橋。今春、この街の風景に大橋会館という新たな文脈が生まれる。クリエイターが集い、これまでの街の文脈と合わさることで、この街がどのような表情を見せるのか。今回は大橋会館プロジェクトに携わるクリエイターインタビューのトップバッターとして、大橋会館の空間設計、インテリアデザインを担当したand Supplyの土堤内さんに、このプロジェクトへ携わった経緯や想い、この街のあるべき姿について、彼らの手がけるレストランバーHoneにてお話しを伺った。

土堤内さんは普段どのような仕事をされているのでしょうか。

and Supplyという会社で設計・デザイン業務をしています。自社の飲食店である、LOBBY、nephew、Honeの空間デザインを担当していて、LOBBYでは、実際にバーテンダーとして現場にも立っています。MYTONEという自社のテキスタイルブランドのファブリックのグラフィックデザインや、自社インスタグラムのグラフィックまわりもやっています。

今回、このプロジェクトでどのような関わり方を?

2階と4階の共用部のインテリアデザインをメインで担当させていただきました。この共用部に関しては、まず自分からデザインのアイデアを持ち込んで、設計の日高さんと根本さんの3人で形にしてきました。

以前、表参道のCOMMUNEでお会いしたことがありますよね!

そうなんです!もう10年ほど前になりますが、代表の井澤と2人でPaint & Supplyというデザインユニットを組み、レタリングアーティストとして活動していた時期がありました。

レタリングアーティストだったのですね。

その後、僕は内装の設計施工の事務所に入るきっかけがあり。元々設計の学校に通っていたこともあって、空間をつくりたいという気持ちを持っていました。レタリングをやりながら2年間、内装デザインの修行をしていたら、新しくモノをつくるよりも古いものを残すことに興味が湧きはじめ、今度は京都で町家建築を学ぼうと不動産会社で働くことに。そうこうしているうちに井澤が独立し、and Supply を立ち上げるタイミングで「また一緒にやろう!」と声をかけてもらったのが4年前でした。

歴史を重んじる京都の街並みから得たものは?

歴史や文化はもちろんですが、京都の街並みは空襲を受けていないから東京にはない表情を持つ建物がたくさんあるんです。それも気取っているわけでもなく普通に建物としてカッコいい。それだけでもたくさんインスピレーションをもらいました。

最初に大橋会館のお話が来たタイミングは?

昨年7月頃だったと思います。最初は代表の井澤が窓口で、301 Inc.の大谷さんからお話をいただいたという経緯だったと思います。

その時、プロジェクトに参加する一番のモチベーションは何でしたか。

共用部という施設の顔のひとつを任せてもらえたというところはありましたし、文脈的にも、この池尻大橋という街に拠点を置くLOBBYに3年間通っていたので、ただ大きい綺麗な建物をつくるのではなくて、「そうそう、池尻ってこうだよね」と言えるようモノにしたかったというところです。

これまでに空間を構成する上で衝撃を受けたものは?

京都の影響は個人的には大きかったのですが、建築というわけではないのですが、年始にオーストラリアに行ってきたのですが、Single Oというコーヒーショップの通り一本挟んだ向かいの建物の壁に、ポンってハイカウンターがくっ付いていて。これって、日本だとあり得ないと思うのですが、彼らにとってコーヒーを飲む場所ってパブリックなものなんだと思いましたし、街の懐の深さみたいなものを感じて。そこにいる人たちがベースで共有しているものがあって、明確な境界線を引いていないところに衝撃を受けました。

大橋会館の共有部に持ち込んだデザインのこだわりは。

2Fのレセプションカウンターが3mくらいあるのですが、そのカウンターはレセプションデスクの延長線上で、誰もがハイカウンターとして作業できるデザインになっているんです。天板は一緒でも目的が使う人によって異なる。明確なパーテーションがあるわけでもない。そういう意味では、境界を曖昧にしたと言えるかもしれません。インテリアに明確な役割を持たせずに、何でも許容できる空間を目指そうというアイデアが最初からありました。

このHoneの空間も確かに統一感はあるのですが、見る場所によって表情が変化するのが面白いなと思って見ていました。

木造の建物なので、リノベーションする時にどうしても抜けない梁や柱なんかがあったのですが、この構造でしかできないことをやろうとポジティブに捉え、あえて個性を際立たせたつくりにしています。いわゆるハズレ席をなくそうという発想で、どの席に座っても印象に残るような空間にすることで、再来店を促したりお客さんの満足度にも繋がると良いなと。

Instagram: @ohkk_ikejiri

ところで池尻大橋って、いま盛り上がってきていているのですか?

お店は増えていますし、盛り上がってきているのだと思います。コロナはありましたけど、この場所はローカルっぽい人口が多い印象ですし、渋谷みたいにガラッと人が減った印象はなかったです。

新しい大橋会館が生まれることで、街に起こることとは?

普段交わらない毛色の異なるクリエイターが集うというのも大橋会館プロジェクトの醍醐味だと思います。それによって、いろんな化学反応を起こし、街がより魅力的になっていったらと思いますし、まだどんな人が入ってくるかわからないという、全容が掴めないところも池尻らしくていいなと(笑)。

池尻エリアの好きなところを教えて下さい。

渋谷から1駅、中目黒も徒歩圏内の立地なのに、ローカルな空気感や街並みが残っているところです。核家族はじめ老人や学生の姿があったり、そこにクリエイターらしい人がいたり。まだカテゴライズされていないけど、独立した街というのが渋谷から1駅先にあるところ。東京って1駅進むだけで街の表情がガラッと変わるところが面白いですよね。

お気に入りのお店は?

紅華飯店というお気に入りのお店がありました。真夏に冷気がガンガン出ているような町中華で、優しいお父さんとお母さんがやっているお店だったのですが、コロナで閉店してしまって。ランタンというおしゃれ居酒屋には会社のみんなで行ったり、新人が入ったらランチに連れて行って紹介するような場所でした。お互いのショップカードも置かせてもらったり、オープン当初から仲良くしていただいています。それにYAOYAという焼鳥屋さんは店内壁面や新店舗の空間設計もやらせてもらいました。そういうローカルな関係性が心地良かったですし、飲食とデザインの軸が2つあったことで面白い繋がりや状況が生まれていった気がします。意外なところで繋がっている人も多いエリアな気がします。

Instagram: @ohkk_ikejiri

大橋会館がゆくゆくはどのような場所になっていってほしいですか?

新しいものができると人の流れが変わると思うのですが、池尻大橋としての街の体質が変わらずに、訪れる方々と同居できるような場所になってほしいと思います。気取ってないけど、自然体でカッコいいバランス感。それもあって「大橋会館」という名前を推しましたし、あえて小洒落た名前にはしなかったというか。それが池尻の気持ち良さに近い気がしていて。デザインしすぎないことですかね。

この場所を訪れる方々が街に彩りを添えていく。その余地を残していくということですね。

はい。街は池尻の核を残しながらも、いかようにも変わっていくというか。

地域の誰もがわかる名前だし、そこにクリエイターが混ざり、さらにそのまわりの近しい人たちが集まって状況が生まれていく。これからの街の変化が楽しみですね。ところで、サウナもあるということですが?

小さいサウナなんですけど、心身ともに整うことで良いアイデアが生まれそうですよね。これから池尻大橋の街がどのような表情を見せてくれるのかを楽しみにしています。

Instagram: @ohkk_ikejiri

PROFILE

土堤内 祐介

Yusuke Doteuchi

and Supplyデザイナー。内装設計事務所で経験を積みながら、デザインユニットPaint & Supplyを立ち上げ、レタリングアーティストとしても活動。以後、京都の不動産会社勤務を経て、and Supplyへ。代表の井澤は、Paint & Supplyのメンバー。現在は、総合的にデザイン業務に携わるなかで、主に空間設計を担当。多くの企業やイベントに壁画・グラフィックデザインなどのデザイン作品を提供しつつ、ストリートバー「LOBBY」やカフェレストランバー「nephew」、レストランバー「Hone」といった自社店舗空間のデザイン設計を手掛けている。